話すことと聞くこと

大月 傑

 

 認知症のある人とどのようにコミュニケーションを(話したり聞いたり)すれば良いか?日々風和で認知症のある人と過ごしながら考えます。

 

 ある時スタッフが「もうすぐ帰る時間なので、よかったらトイレに行かれませんか?」とAさんに声をかけました。Aさんは「え?何をするって??」と、やや困惑していました。少し時間をおいて、別のスタッフが「Aさん、トイレに行きませんか?」と声をかけると、Aさんは少し間を置いて「なんで?」と聞き返しました。そこでスタッフが「もうすぐ帰る時間やから。」と答えると、Aさんは「そうか。用を済ましておくか。」と微笑みながら言われました。

 

 認知症のある人にとっては、話は1つずつの方が分かり易いのです。そしてゆっくり話すことも重要です。認知症がない人の会話のスピードは、認知症のある人にとっては早口で聞き取れないぐらいに感じるようです。2人以上の人が同時に話すのも、うまく伝わらない原因です。テレビや音楽などをかけず静かな環境で、1人ずつ話した方が聞き取り易く、うまく伝わるのです。

 

 さて逆に、認知症のある人が話すことは介護者や家族にうまく伝わっているでしょうか。話を聞く人はどのように聞いたら良いのでしょうか。

 

 認知症のある人に何かをたずねた時、答えが返って来るまでに時間がかかるかもしれませんが、そこで充分に待つ必要があります。マルコム・ゴールドスミス(1996)※は、認知症のある人は、病気のない人に比べて 話を理解する(情報を処理する)のに5倍の時間がかかるとしています。

 

 また、たずねられたことは理解できても、答えるのにー自分の思いを表す言葉を見つけるのにー時間がかかったり、ちょうど良い言葉が見つからなかったりするのです。適当な言葉が見つからない時、認知症のある人は、言いたいことに近い言葉や似た言葉を代わりに使うことがあります。例えば、娘のことを話しているのに、妹と言ったりすることがあります。そういう時、娘の代わりに「そのようなもの」として妹という言葉を使っていることが多いのです。

 

 聞く人は、言葉の「間違い」よりも、話の流れや表情や仕草などの全体から、その言葉が意味している「言いたいこと」に目を向けるようにすると、うまく聞くことができます。とくに私たち介護職は上手な聞き手でありたいと思うのです。

 

※マルコム・ゴールドスミス「私の声が聞こえますか」2008年,雲母書房

ささやま里ぐらしステイ

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